俺が生きる意味 1

俺が生きる意味〈レゾンデートル〉1 放課後のストラグル

著/赤月カケヤ イラスト/しらび (ガガガ文庫

ジャンル:パニックホラー、バトル、異能力(?)

評価:☆5(気持ち☆6にしたいが、シビアに判断して☆5、8段階中)

俺が生きる意味1 放課後のストラグルのあらすじと感想。

気になるけど、踏み切れないという人は

個人的あらすじのあとの感想部分をメインに

読んでいただければと思います。

第5回小学館ライトノベル大賞・優秀賞を

「From~とある不幸な手紙」で受賞し、

受賞作を「キミとは致命的なズレがある」と改題してデビューした

赤月カケヤさん。

デビュー作以来約2年ぶりとなる待望の新作で、

2作目となるシリーズが本作、「俺が生きる意味」である。

※なお、読みは「おれがいきるレゾンデートル」です。

個人的にずっと楽しみに待ってた作家さんです。

ついに…ついに、きた…!という感じです。

あらすじ

ある日の放課後、葦原第2高校に通う日本斗和(ひのもと・とわ)は仲のいいクラスメイト女子2人から呼び出される。

彼女たちが呼び出した内容はどちらも告白。

ただその日は先生方の研修日で生徒は放課後速やかに下校するよう指示が出されていた。

斗和は申し訳ないがどちらかは断ってまた後日改めて話してもらおうと考えた。

斗和は赤峰寧々音(あかみね・ねねね)に断りを入れ、

青葉萌由里(あおば・もゆり)の呼び出しに応じることにしようとしたのだが…。

個人的あらすじ(+少し思ったこと)

冒頭は至って普通な、高校で繰り広げられる風景。

斗和くんの博識っぷりとリア充ぶりに嫉妬しそうになるけど。(予想外にリア充とかっていう言葉がポツポツ出てくる。恐らく意図してのこと)

しかしそんな日常も放課後になるまでの僅かな間しか繰り広げられない…。

放課後のシーンからは不穏な空気が漂う。

斗和がメールを送信しようとしたとき、突如弦を弾いたような耳鳴りが聞こえてきた。

その瞬間を境に、世界は一転する。

斗和はメールが送れない事に気づいた。何故か圏外になっていたのだ。

教室の窓から外を見れば、先程までとは雰囲気が違う。今日は終日晴れの予報。さっきまでは薄暗いどんよりした雲で覆われてなんかいなかったのに…。

違和感を覚えながらも、青葉の呼び出しに応じ、教室棟から離れた

人気のないセミナーハウスの裏へ向かう斗和は生徒数人が

「外に出れない」と言っているのを聞く。

どうやら〈見えない壁〉のようなものがあり、学校の敷地外へ出れないとのこと。何をやっても外に出ることはできず、不安に怯える気持ちは不穏な空気に飲まれつつあった

それとほぼ同時に斗和はあり得ないものを目にする。

少し離れた体育館の屋上に、人の大きさを優に超える大きさを持つ生き物がいたのだ。

斗和はその生き物と目が合ってしまう。ゾクリと背を走る寒気。

その、猫の顔を持つ生き物は突如そこから高く跳躍した。

あり得ない生き物があり得ない行動をした。

そして不気味な猫の顔を持つ生き物は斗和たちめがけ落下してくる。腹の底から沸き立つ恐怖。

落下に巻き込まれた数人が一瞬にして命を亡くしていく。

その死に方は常識じゃあり得ない。

首を蜘蛛のような脚で裂かれ死ぬ女子生徒。

同じように腹を脚で刺され死ぬ男子生徒。

斗和を呼び止め、話しかけていた体育教師は今、

斗和の眼の前で上半身を猫蜘蛛(ねこぐも)に食われ、

下半身だけになって死んでいた。

その場にいた多くの生徒は蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。

それはもはや歯止めのきかないパニック状態。

すぐさま建物内へ逃げる斗和。

しかしその斗和の後ろ姿を狙う猫蜘蛛…。

感想

まず評価では☆5としたが、これは「今後の展開を見越した導入部分だからで、あくまで序盤にすぎず、話の真骨頂ではないから。」、

つまりここから盛り上がっていく話の典型だと私は思う、ということ。

前の記事でも書きましたが、一応は構成15年であることに変わりはないわけだから、そこで行き当たりばったりな話ってことはないだろう。

思いついたのが15年以上前という意味でした。

なので、『まだこの話(この1巻)は始まりに過ぎないんだよ』、

ということだと、個人的には願いたい。

これで2,3巻目で終わりだと、パニックホラーを出しきれないだろうし。それもこれも売り上げ次第ということになってしまうのだろうが…。

いや、もちろん短い話だから上手く纏められる話もあるので、その可能性は否定出来ないのだけど。

むしろ前作から察するに『短い巻数で、充実した内容にする可能性のほうが高いのではないか』、と私個人としては考えていたのですが、パニックホラーで短い話って想像がつかない…。

前作「キミとは致命的なズレがある」では心理描写が上手く、最初から最後まで主人公の心理面・精神面が強く感じられ、(人として)主人公の自我の崩壊を直に見ているようで恐ろしかったし、主人公の心理が自分のことのように感じられて心が痛かった。

こんなものを見せてくれる作者は

何てすごいんだ!』と思ったほど。あの時の衝撃はすごかった。

ラノベの中でサイコ小説っていうのは、

私にとっては衝撃だったし、今でもその衝撃は続いている…。

本作では主人公が冷静に、合理的な判断をする場面が多いことから心理描写が『致命的』ほど濃くない。パニックホラーであるから、その状況・状況を描写する割合が多くなるのは仕方がないのだけど。

『致命的』での心理描写は精神にクル(届く)ほどだったので、期待していたところが大きかった。その部分が薄いのは少し残念。

ただ、その分状況(現実)に恐怖するだろう。

主人公たちが遭遇している場面を想像してみれば、それは死が目の前に転がっているのと同じ事で、恐怖しないわけがない。生きているのが恐ろしくて仕方がない状況なのだ。

その場面が想像できるのはイラストの

しらびさんとデザインの方のおかげである。

まず口絵から漂うH.O.T.D.みたいな

『ああ、この世界は終わってしまうんだ…』感。

正直これは表紙とタイトルからは全く予想できなかった。(かく言う私はH.O.T.D.大好き。)

そして〈校内見取り図〉から沸き立つ興奮と、

そこから生まれる主人公たちの行動のリアリティ。

〈校内見取り図〉は文字の通り、舞台となる葦原第2高校の敷地内を詳細に示した見取り図で、教室棟以外にも運動場、体育館、駐車場、講堂、図書館…と詳細に示されている。

この見取り図により、作中での斗和たちの行動がより上手く思い描くことが出来る。

※学校内に貼られていた見取り図を敷地内全体にバージョンアップしたものと思ってもらえばわかりやすいと思う。

しらびさんのイラストは可愛い女の子とカッコいい~キモい男子だけに留まらない。

パニックホラーで重要な役目(と表現しておく)になるのは人類の敵である某かだ。

本作では「化け物」がその役目を背負っている。

そしてそのイラストもしらびさんが担当している。

恐怖心を掻き立ててくれること間違いなしの、

素晴らしい「化け物」デザインでした。

おかげで作中でも想像しやすくて大変助かった。

ここからはネタバレも若干含む個人的に注目してること(言いたいこと)。

※はネタバレ注意です

・作中の世界は現代日本に似ているが、かなり違っていて、人々は髪の色、瞳の色がみんな違う。色彩(虹彩)豊か。登場人物たちは日本人と明記されている。

・髪の色などが変わった日本人が登場するのは、

過去に起こった大災害で何らかの遺伝的変異があったかららしい。

一部の人間には異能力の能力が宿っている。1巻ではわずかに登場したのみ。これから紐解かれていく要素の一つになるだろう。

プロローグで斗和の従姉妹が出てくる。ただその従姉妹はプロローグ中で死亡(?)する。

またそのプロローグ中で「化け物」と関係するだろう何かが出てくる。

・斗和と寧々音と萌由里の三角関係。

・斗和と操先輩とキタジの三角関係。

化け物たちを倒す方法が見つかるのか。学園内に残る人物は他にいないのか。

・新たな「化け物」は登場するのか。

作中で『主人公トリック』というワードが登場する。前作の手法から察するに本作は『主人公トリック』の可能性がある…?(あくまで可能性)

主人公(であるはず)の斗和は死んだのか否か。

果たして2巻の幕開けやいかに。

俺が生きる意味 1 (ガガガ文庫)
赤月 カケヤ
小学館 (2013-03-19)
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