妹様による、俺ルート攻略・ラブコメ理論
(明月千里/☆画野郎)
評価:☆5
ジャンル:ラブコメ
「月見月理解の探偵殺人」や
「眠らない魔王とクロノの世界」
の明月千里さんの新シリーズ。
私は月見月の1巻だけ既読。かなり面白かったのに、2巻は積読…。
2巻を積んではいたものの、
1巻のあの衝撃は私の中ではしっかり心に刻まれてました。
「試読版読んだだけでは正直当たりなのか地雷なのか分からない
新シリーズでも、最初から手を出させる」ほどに衝撃だったのです。(mebaeさんのイラストあってこその衝撃だったかもしれませんが!)
あらすじ
「――お兄様。わたしが極めた恋愛理論で
あなたを攻略してみせます!」
「いや、お前が参考にしてたのって
ギャルゲーだけじゃねえか!」
アバターを用いた『日常仮想(バーチャル)空間』での交遊が流行し始めた現代。
現実で窮屈な高校生活を送っていた景太は憧れの人気アバター
【妹姫】枢院(くるるいん)アリスの正体が、同じ学校の堅物風紀委員・片瀬透子であることを知ってしまう!
秘密を守りたい透子(アリス)に迫られて、景太は「相手への絶対命令権」を賭けてネットで『兄と妹の恋愛』というクエスト勝負をすることに!?
男心を知り尽くす(?)恋愛『ゲーム』の天才、
枢院アリスによる俺の攻略が始まる。
個人的あらすじの前に少し。
試読版を読んだ時点では不安が大きかった本作ですが、そこは明月さん。ラストに近づけば近づくほど話としての収束がついていく。
収束がつくこと自体は当たり前だけど、
ここまで上手くまとめられると『上手い』と言いたくなる。
だから前半部分に当たる試読版の部分は
「やりたいようにやりました!」とでもいう感じ。
それを踏まえて、
個人的あらすじ
主人公、上倉景太は少し見えっ張りだけどごくごく普通の高校生(ほんとうに普通)。
家庭の事情で勉強はずっとしてきていたので、レベルの高い進学校を受験。しかし失敗。少しレベルの低い私立校への入学となった。するとなんということか入学試験で1位の成績を取ってしまった。入試で1位ということは、入学式の式辞を任される。そして学校側からの勝手な推薦で生徒会に入ることになり、景太は『優等生』という肩書きを押し付けられた。(景太自身からしてみれば有ること無いこと言われる『優等生』という立場は相当不幸…)
しかしそんな景太にも楽しみな事はあった。
ラヴァーズ・コミュニケーション・オンライン。
通称・LCOである。
LCOはプレイ環境を整えるのが大変なゲームであるにもかかわらず、数十万人のプレイヤーが居る"今世紀最大のバーチャルゲーム"でRPGや戦争、ファンタジーゲームとは違い、限りなく現実に近い仮想空間を体験できるゲームで、景太にとって"本当に心が落ち着く場所"だという。(何せリアルでは居もしない『優等生』をやっているから)
LCOではリアルのことを気にすることなく『もうひとつの日常』を過ごす(遊ぶ)ことができ、リアルで『日常』を過ごすことの出来ない景太にとってはLCOこそ『日常』といってもいい場所なのであった。
※ここから重要
LCOの大きな特徴で『設定』というものがある。例えば『今から遊ぶ人は彼女』という『設定』を設けることで遊ぶ、といったものだったり、『○○と△△は家族』という『設定』で過ごすものだったりがある。
そんな景太はLCO内での超人気アバター『妹姫』の大ファン。
LCO内には人気ランキングというものがあり、
『妹姫』こと枢院(くるるいん)アリスは常にトップスリーに入るほど人気で、現実ではもちろん、仮想空間ですら会うことが難しいプレイヤー。
……なのにそのアリスが景太の妹に!?
そして景太とアリスはお互いを攻略することを目的とした
『恋愛クエスト』をやることに!
クエスト達成の条件(フラグ)は3つずつ。
『設定』されたシチュエーション5回中、
先に自分のフラグを3回達成した方の勝ち。
または
『相手を惚れさせる』ことが出来れば勝ち。
というゲームが『恋愛クエスト』。
二人の勝負の行方は――
感想
本作「妹様による、俺ルート攻略・ラブコメ理論」はリアルとバーチャル空間LCOを交え、切り替えつつ話が進みます。簡単にいえば短い場面と場面の連続。なのでテンポはかなりいい。ポンポン進む。
ジャンルは典型的なラブコメ。
そこに仮想空間での『設定』や
『恋愛クエスト』、条件(フラグ)など
かなり面白い要素が加わっている。
単純に『仮想空間』と『リアル』という二面性があるだけでもかなり面白いかも。
しかしその反面、会話と内情(のつぶやき)が「何かの漫才でも見ているかのようなノリ」と言ってしまうほどのノリ。イメージしやすいのはアニメ放送中の「俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる」。「俺修羅」のノリに近い、そう思うと割りと動きもあるしいい具合のラブコメということになるんだろうか。(今思った。)
イラスト担当の☆画野郎さんのイラストは初めて見たのですが、
素晴らしいですね。
ラノベのイラスト単体で「おぉ」と素直に思えたのはかなり久しぶり、
または初めて。
ラノベ読んでると「なんでここを挿絵にするの!?」という、もはやお馴染みの苦情が大体あるんですが、本作では無し。「ナイス!」と言いたくなる場面を見事に描いてくれてます。
あと「すげぇ」と思わず感嘆をあげてしまう仕掛けが施されている。
正直これには驚かされた。☆画野郎さんは「当然これぐらいやります」という気持ちで描かれたのかもしれないっていうぐらい原始的なものなのですが、「これはすごい」と言いたくなる。
"しっかり作品を表現してくれる"いいイラストレーター様を起用したと思います。
さて内容です。
と言っても典型的なラブコメなのであらすじで書いたこと以上にあえて言うほどのことはあまりないと思うので、個人的に良かったと思ったところなど。
私が間違って無ければヒロインは一人で"三面"性持ち合わせてる。
純情、清楚、腹黒の3つ。
これはリアルと仮想空間という使い分け+さらなる使い分けがあったから出来たことです。
またヒロインは頭を使って主人公を"惚れさせよう"としてきます。そんな策略家な一面も微笑ましいと思いました。さらにその策略家な一面から出てくる小悪魔的な部分も自分は好きです。
(どんな月見月理解だ!というツッコミが聞こえるようだ…)
…話は典型的なラブコメ、ノリはまるで漫才…これでどうやって落ちをつけるのかと前半から中盤までは地雷臭がハンパなく、めちゃくちゃ不安でしたが、後半に入ってから彼らが"本気"であるという熱意、気持ちが伝わってくることでその不安は徐々に取り除かれていきます。
ラスト数十ページは予期してなかった展開に驚きつつ、見えないラストに期待する。
ラストは少年少女の真っ直ぐな気持ちと
甘酸っぱい気持ちで大団円。とまでは
行きませんがラブコメらしい終わり方。
たまにこういう気持ちにさせてくれるものを読むのもいいものだと感じました。決して満足した内容ではありませんでしたが、
ありがとうと明月さんと☆画野郎さんに言いたいです。
最後に
あのラストからでは今後には期待するしか無いでしょう。
それぐらいには面白いし上手くまとまっています。
これが青春ラブコメディってことか。今理解した。(理解だけに